世界でいちばん透き通った物語
ここ数年、紙の本を買う機会は以前と比べてかなり減った。
理由は単純で、嵩張るからだ。
一人暮らしを始めた数年間は自分で使うことのできる金額なんてたかが知れていて、それまで図書館で読めていたものが読めなくなり、古本屋で新書と何冊かの専門書とともに購入した記憶だけが残っている。
そんな本たちも引っ越すにあたっては荷物の一部でしかなく、むしろ重量物であるがために苦労させられたという苦い経験から私は電子書籍派になってしまったのだ。
勿論紙の本を好きでいた私でもあったので、最初の頃は抵抗が無いわけではなかった。けれども時折開催される半額キャンペーン・ポイント還元セールなどといった甘い罠の魅力からはどうしても逃れ得ぬことができなかった。
なによりも発売日に確実に手に入れることができ、端末にダウンロードさえし終えてしまえばすぐに読める。暗いところでも読める。カーテンを締め切ったり、夜中に電灯もつけずに読書体験ができる環境は私にとって欠かせないものになっていった。
そんな中、作者の新刊が出るということでいつものようにAmazonの販売ページにアクセスした際、私は少し失望してしまっていた。
電子書籍版の表記がなく、紙のみの販売となっていたからだ。
すぐに読みたい、と思う気持ちが先走り有料会員特典を使い注文をしたが、少し時間を置くと「たまにはゆっくり時間を取って紙の本を読むのもいいかもしれない」と思い、今この記事を書いている二時間ほど前から読み始めた。
本書の内容については言及を避けざるを得ない。
言うまでもないが、内容的に不満があるわけではなく、先入観も何も持たずにただ物語に触れてほしいのだ。
表紙、帯、あらすじ、質感……。
実態のある情報を受け取って、少し心躍らせながら読むだけでいいのだ。
ただ可能ならば、本をめくり1度ページを読み進めたのなら、最後まで止まらずに読んでほしい。
久しく書店に足を運ぶ機会が減ってしまった私だが、あぁ、また本屋に足を運んであの空気感を感じ、レジまで運び、私のものとなる感覚とともに、表紙を開くまでの高揚感にまた触れたくなってしまった。
そんな作品だった。